聖徳以来、日本仏 教で最重要視されてきた経典の 中に『維摩経』がある。維摩居士と仏 弟子、文殊とがりなすドラマチックな展開 は、古から僧俗をわず多くの知識人の心を魅了してきた。

その原本であるサンスクリット写本が、大正大学綜合仏教研究所調査団としてチベット・ポタラ宮に入っていた著者によって初めて発見された。

1999 7月のことだ。そのニュースは、「仏教研究における20世紀最大の発見の一つ」として世界を駆け巡った。

研究は「現存しない」とされてきた原典の発見で新たな段階に入り、台湾で年続けて国際学会が開かれるなど、世界中の研究者・仏教者の熱い視線が注がれている。

そうした『維摩経』研究を根底から支えるテキストが本書だ。

〔続きます〕

梵文写本の校訂テキトをもとに、左頁にサンスクリット・チベット訳・三漢訳(支謙・羅什・玄奘訳の漢文と書き下し文)を配置。右頁にサンスクリットからの和訳と訳註、チベット訳からの和訳(長尾雅人・大鹿賀秋・河口慧海)、羅什の注釈とコメントを付した。巻末には比丘の美徳や衆生・如来の身体の特性など、各品における主要項目を梵・蔵・漢で対照させた「付表」を収載。研究者だけでなく、仏教に興味を持つ一般読書人にも読みやすいように工夫されている。

著者は『維摩経』の重要性について、「人間の生き方が全編を通じて明確に説かれている。人生の大きな支えになる」と指摘。奈良・興福寺の名の出典になるなど、「『維摩経』は日本文化に深くしみ込んでいる」と言う。

5巻で順次刊行。今巻には「仏国品第一」「方便品第二」を収録。仏教タイムス2017.5.18