聖徳太子以来、日本仏教で最重要視されてきた経典である『維摩経』。その最先端の研究成果を反映した注釈書の第4巻(全5巻)。「仏道品第八・入不二法門品第九・香積仏品第十」を収録する。維摩居士と仏弟子らが織りなすドラマチックな展開で知られる同経。前巻から幕を開けた維摩居士と文殊菩薩の対論で仏教の本質が次々と解き明かされ、今巻で遂にクライマックスを迎える。

「菩薩は行くべきではない道を行っても、あらゆる仏法の道を行く」。真の菩薩の姿が次々と明示され、「煩悩の海に入って行かなければ、一切智性という心宝を生じさせることはできない」とまで言い切る。「悟っているが、衆生救済のためにあえて輪廻を受け入れる」という菩薩の生き方が躍動的に語られる。

 そして、維摩居士が仏法の絶対の真理を「沈黙」をもって示す「維摩の一黙」の場面へ。維摩の沈黙を絶賛する文殊菩薩と、これを契機に「不二の法門」へと入っていく菩薩たち―。かつて南都・興福寺などで営まれていた「維摩会」の法悦までもが伝わってくるようだ。
 サンスクリット・チベット訳・三漢訳(支謙・羅什・玄奘訳)や従来の和訳を比較・参照するなど、現在の研究の全てを網羅する。今巻の口絵には、故松濤誠達・第30代大正大学学長が揮毫した「入不二法門品」の一文「時に維摩詰 黙然として言なし」(維摩の一黙)を収載。雄渾な筆致が、幻とさえ言われた『維摩経』のサンスクリット原典発見の「感激」を伝えている(原典は大正大学綜合仏教研究所調査団としてチベット・ポタラ宮に入っていた著者が1999年7月に初めて発見)。

 巻頭には陳士濱・宏国徳霖科技大学副教授の論考「龍蔵本『維摩詰所説大乗経』訳本について」を収録。(『仏教タイムス』※色太字は弊社



 

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